BIODIVERSITY 生物多様性グループ

2025.11.07

生物多様性グループ

コラム:スリランカから学ぶ ― マングローブがつなぐ人と地球の未来【生物多様性グループ】

いよいよ開幕するCOP30に寄せて、CRPジャパンのAction Groups「生物多様性グループ」メンバーがコラムを執筆しました!ぜひご覧ください。

参考ページ:
▶COP30に向けたCRPジャパンのポジションペーパーなど
▶COP30にむけた生物多様性グループの意見まとめ(日本語)
▶生物多様性グループコラム 第一回『生物多様性って気候危機と関係あるの?』

 


生物多様性グループ コラム第2回

スリランカから学ぶ ― マングローブがつなぐ人と地球の未来
~COP30・ベレンへ向けて、自然とともに生きる道を考える~

マングローブ保全を国の政策に掲げたスリランカ

南アジアの島国スリランカは、世界で初めてマングローブの保全を国家政策として明記した国のひとつです。
かつては沿岸開発やエビ養殖によりマングローブ林が減少しましたが、2015年、政府は方針を転換。マングローブを「国の宝」として守る全国的な保全プログラムを立ち上げました。
この取り組みは、女性や地域住民の参画を重視し、自然保護と地域の生計向上を両立させる先進的な試みとして国際的に評価されています。

 

マングローブ・ミュージアムでの出会いと学び

私は2025年4月、スリランカ西海岸にあるLanka Mangrove Museum(マングローブ博物館)を訪れました。
そこで館長さんや学芸員の方々から、マングローブ保全の歩みや地域との協働の物語を伺い、人と自然のつながりを肌で感じました。

📸 マングローブ博物館のエントランス。マングローブについてはもちろん、地域との関わり、保全の重要性についての展示、さらに苗の飼育も行っている。

 

さらにボートで実際のマングローブ林を巡ると、複雑に入り組んだ根が海岸を守り、魚や鳥たちの命を育む生命の森が広がっていました。
岸辺では、マングローブと共に暮らす人々の穏やかな日常があり、「自然の力を信じる」という言葉の意味を改めて実感しました。

📸 ボートでマングローブ林を見学。根の間には小魚やカニが集まり、伝統的な漁が行われており、生態系の豊かさを感じる。

 

マングローブの“気候変動対策”としての力

マングローブは、海辺の風景をつくる木々というだけでなく、気候変動に立ち向かう「自然の味方」です。
その役割は多面的で、科学的にも確かな根拠に支えられています。

 ① 炭素を大量に吸収・貯留する「ブルーカーボン生態系」

マングローブの根や泥には二酸化炭素が長期的に閉じ込められ、陸上森林の3〜5倍の炭素貯蔵能力があるといわれます。これは、温室効果ガス削減に大きく貢献する「海の炭素吸収源」です。

📸 マングローブの炭素貯留を説明する展示

 ② 海岸を守る「天然の防波堤」

根の網目構造が波のエネルギーを吸収し、高潮や津波の被害を軽減します。2004年のインド洋津波の際、マングローブ林がある地域では被害が少なかったという報告もあります。

📸 干潮時のマングローブ。まさに自然の防波堤。

③ 生態系のゆりかご

魚やエビ、カニの産卵・成育の場として、地域漁業を支える命の拠点となっています。生物多様性を保つことが、海の恵みと人の暮らしを支えることにつながっています。

📸 マングローブが生み出す豊かな生態系

④ 地域の暮らしと文化を支える存在

枝や葉は燃料や飼料、建材として利用され、女性の雇用や教育支援の機会にもつながっています。マングローブを守ることは、自然と人の両方を守る行為なのです。

 

COP30・ベレンへ ― 自然の声を世界へつなぐ

2025年11月、ブラジル・ベレンで開催される「第30回気候変動枠組条約締約国会議」(COP30)では、世界各地で進む「自然を基盤とした気候解決策(Nature-based Solutions)」が大きな議題のひとつとなります。
私がスリランカで見たマングローブ林は、まさにその象徴でした。炭素を吸収し、海岸を守り、生物を育み、人々の暮らしを支える――自然そのものが、気候危機の解決者になり得ることを、現地で実感しました。

ベレンはアマゾンの玄関口でもあり、マングローブや熱帯林など地球規模の生命系が交わる場所です。スリランカの経験と同じように、そこでも「自然と人が共に生きる道」を議論し、具体的な行動へとつなげていくことが期待されています。

 

自然を守ることは、私たちを守ること

スリランカのマングローブ林で感じたのは、「自然を守ることは人を守ること」だという普遍的な真理でした。気候変動への対策は、テクノロジーだけではなく、自然の力を活かす知恵と行動によっても実現できます。日本でも、ブルーカーボンや沿岸生態系の再生など、マングローブに通じる取り組みが広がっています。

COP30を前に、私たち一人ひとりが、スリランカで見たあの静かな森のように、地球とともに生きる選択を重ねていきたいと思います。

📸 帰路、世界自然遺産である奄美大島のマングローブに寄る。

 


文責: 太田知明(Climate Reality Project Japan 生物多様性グループ)
訪問地: Mangrove Museum, Pambala, Sri Lanka(2025年4月)

 

参考ページ:
▶COP30に向けたCRPジャパンのポジションペーパーや生物多様性グループの意見
▶生物多様性グループコラム 第一回『生物多様性って気候危機と関係あるの?』

 

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